気象の変化

次世代気象モデリングによる地震・ゲリラ豪雨の予測

膨大な気象データとAI学習は、これまで予測が難しかった地震や局所的なゲリラ豪雨などの未来の気象リスクを把握できるのでしょうか。

例えば、Google DeepMind社による、グラフ構造とノード間の関係性を考慮しながら特徴学習するタイプのニューラルネットワーク「GNN」を用いた GraphCastは、既存の気象予測を上回るスコアを出しており、実用化が期待されています。

気象予測の課題

データとモデルリングの双方に課題を抱えています。
例えば、
符号化誤差が生じる取得データ、
膨大な計算リソース、
追いついていない物理プロセスの解明、
近似式やパラメタリゼーションによる単純化と欠落、
等々、テーマごとに、現状のテーマをまとめてみました。

地震予測

「いつ発生するのか?」「どこで発生するのか?」の予測が極めて困難

主要機関や地震予測の公表
地震調査研究推進本部
活断層や海溝型地震を対象に分析を行い、将来発生すると想定される地震の場所、規模、発生確率を長期評価として公表している。

全国地震動予測地図
地震発生の長期的な確率を強震動の評価を組み合わせたもの

地震動予測地図
震源断層に対する今後30年以内に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率

観測データに基づく予測手法

統計的な地震活動解析
大規模なデータからの特徴抽出やパターン認識を行い、機械学習による予測モデルを構築する。

定量評価
ある地域における地震の静穏化(一時的な地震活動の低下)や活発化現象を平均的な地震の活動レベルと比較し評価する。

地震系列解析
群発地震や前震活動等の特定の地域で継続的に発生する地震活動と、その後の大地震発生との関連性を探る。

地震発生の前兆現象に基づく予測手法

電離層異常
2011年の東日本大震災の数日前に、震源域上空の高度約300kmの電離層の電子密度が異常に上昇していたことを衛星データから確認。 同様の現象が他のマグネチュード8クラスの巨大地震でも観測されたことから、地震の前兆現象として注目されている。

地下水の変化
地下深部の水などの流体の移動が、断層の強度変化と地震活動に関係性を研究

ラドン濃度の変化
ラドン濃度の上昇は測定されない深部での地震が岩石中のラドンガスの放出を促していると仮定した研究

地震波トモグラフィー
地震波の速度構造の異常から、地下のマグマ溜まりや地殻構造を推定する。

GNSS
高精度GPSの観測網によって、地殻の微細な変動を継続的に観測し、ひずみの蓄積やスロースリップ現象を検出する。

シミュレーションに基づく予測手法

地殻とマントル最上部の構造のイメージングを行い、 大陸プレート境界での変動や地震発生直前のスロースリップ域の拡大など、巨大地震発生に至る過程に関する知見を得る。

応力の蓄積・解放モデル
プレートの運動によって蓄積されるひずみや応力が、断層の摩擦特性や破壊強度を超えた時に地震が発生するという仮説に基づく

断層破壊
地震発生時の断層の滑りによって引き起こされる地震波の伝播や地盤の揺れを数値的に捉える。

地震予測に必要なデータ取得の課題

ゲリラ豪雨の予想

ゲリラ豪雨の定義とは、1時間あたりの雨量が20mmを超える局地的に発生する激しい雨と雷雨のことです。
予測のリードタイムが極端に短い為、事前に発生場所や発生時刻を予測することが困難です。

なにが予測を難しくしているか?

空間スケールが極めて小さい
ゲリラ豪雨は数km~数十kmの範囲で発生するため、従来の気象の距離的な解像度では捕捉できない。

時間スケールが短い
ゲリラ豪雨の発生源となる積乱雲の寿命は約1時間です。 地上近くの湿った空気が上昇し、空気中の水蒸気が凝固することで育ち、発生から30分で豪雨を引き起こします。

バタフライエフェクト
初期条件の温度、湿度、風速の誤差が1%違うだけで、発生の有無が分かれるバタフライ効果の典型例

物理プロセスの再現が困難
雲の中の水滴や氷の粒の相互作用が複雑で、数値モデル化し、互いの影響を近似(パラメタリゼーション)するのが限界

地形が及ぼす効果
海風やヒートアイランド化する都市部ばど、局所的な要因をモデルに組み込むのが難しい。

ゲリラ豪雨予測に必要なデータ取得の課題

激しい雨と雷雨

竜巻の予想

発達した積乱雲に発生し、上昇気流を伴う激しい渦巻きが人や家屋に甚大な被害をもたらす竜巻ですが、 低気圧性の渦であるメソサイクロンの検知と竜巻の母体となるスーパーセル発生予測が極めて困難です。
現状、発生確率の算出が限界です。

予測計算の難解さの要因
まず、地形、地表の森や植物の樹勢状況、土壌の水分量などの微小な変化が下層の気流を乱し、対流発生に影響を及ぼします。
次に、秒単位と時間単位の指標が混在している為、部分領域に分割して解析する必要があり、並列化計算における同期オーバーヘッドが増えます。
そして、いざ計算しても、確率変数の分布が収束しない為、決定論的な予測が出来ません。標本数を増やしても難しいです。

竜巻予測に必要なデータ取得の課題
大気境界層と大気下層の3次元風速場のデータの不足。
加え、ラジオゾンデ観測等の高層観測の頻度が低く、竜巻発生に必要な秒単位の風の変化を捉えられない。

噴火の予想

気象予測のうち、数日~数週間程度の短期的な予測であれば容易に行え、精度も高い。
2000年3月の有珠山の噴火は代表的な事例で、 現地に常駐していた研究者が噴火を1週間前に予測し、警告を発したことで、住民全員が事前に避難できた。

噴火の兆候
噴火予測に必要なデータ取得の課題
監視体制が整った火山では噴火の兆候をほぼ捕捉可能という研究結果もありますが、日本の活火山のうち、常時観測の対象となっている山は約半数に留まっています。

また、前兆現象が少ない水蒸気噴火では、予測自体が困難であるという課題も残ります。

自然災害予測の結論
手っ取り早く、気象予測の精度をあげる為に、出来る事は、
地震の予測
多様な観測データの取得と発生原理の解明
ゲリラ豪雨の予測
多様な観測データの取得
竜巻の予測
発生原理の解明
噴火の予測
観測ポイントを増やす

気象予測のうち、特に、地震に関しては、因果関係の解明や予測モデルについて、 さらなる研究が必要な段階であり、発生前に広範囲に警告をだせる精度には達していません。

オオカミがきたぞ
2024年8月8日に発生した宮崎県日向灘沖の地震を根拠に「南海トラフ地震臨時情報・巨大地震注意」が発令。
南海トラフ被害想定区域では、お盆に予定されていた花火大会やフェスタの中止、海水浴場の閉鎖などの対応に追われました。

南海トラフ地震警報の後日談
「和歌山・白浜町、南海トラフ臨時情報で「損失5億円」政府に支援求める」
https://www.sankei.com/article/20240815-O5T64VD42FOEPE7HQ5GAE5OYNM/
和歌山県白浜町の大江康弘町長は15日、南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)の影響で、宿泊キャンセルが相次いだとして、 政府に支援を求める考えを記者団に示した。

無駄に市民を怖がらせたり、逆に警戒慣れを招くので、当たる見込みの低い予言もどきの気象予測は公表すべきではないし、 即座に予測精度の上昇が見込めないのであれば、地震予想に予算を費やすよりは、いつどこに地震が来ても備えられるように耐震化対策に予算を投じた方が現実的である。