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会計ソフトやAIは税理士の仕事を奪うのか?

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AIが普及すると税理士は不要になるのか?

「進化し続ける会計ソフトウェアが税理士や会計事務所の仕事を奪う。」と言われるようになって久しい。

それに対して、 経理が総失業するかのような極端な意見、
「税理士や会計士の将来的な失業は20年前から言われているが、無くなっていない。」等の根拠の薄い意見、
会計ソフトの仕組みを根本的に理解していない的の外れた指摘、
等々、会計士や税理士から不安と否定の混じった愚痴を聞く機会が増えました。

欧米では、会計ソフトの普及により、大量の会計士の失業が起きたのも事実であり、
一方で日本という国の経理を取り巻く環境が、閉鎖的で変化を好まないというのも事実です。 進化し続ける会計ソフトの普及により、経理業務は、どのように変わろうとしているのかITサイドから検証してみました。

尚、この記事で検証する会計ソフトは、管理会計、財務会計、など広く含めた経理業務全般を扱う会計ソフトも含まれています。

項目

会計ソフトの種類

会計(経理)ソフトの機能 会計ソフトの種類 会計ソフトの基本的な機能

  • 取引入力
  • 集計
  • 決算書類等の作成

会計ソフトのオプション的な機能

  • 財務状況の分析
  • 資金繰り(キャッシュフロー)の管理
  • 労務管理
  • 販売管理

ほぼ、すべての会計ソフトで、 個人事業主、法人、の双方、もしくはどちらかに対応しており、 確定申告、青色申告での会計報告、法人税申告書の印刷による出力が可能です。

クラウド会計ソフトとは?

インストール型の会計ソフトとクラウド型の会計ソフトの違い
インストール型 クラウド型
 インストールして使う会計ソフト  クラウド型会計ソフト
パソコンに会計ソフトをインストールして利用 会計ソフトがインストールされているサーバーに接続して利用

インストール型の会計ソフトの特徴

メリット
  • パッケージとして家電量販店で購入可能
  • ネットに繋がっていない(スタンドアロン)パソコンでも利用できる。
デメリット
  • インストールしなければ使えない。
  • アップデートが有料であることが多い。
  • 異なるパソコン間ではデータを共有しにくい。

クラウド型の会計ソフトの特徴

メリット
  • 常時アップデートが可能(法律の変化に即時対応が可能)
  • OSが異なるMacやAndroidの間でデーターが共有できる。
  • インストール不要である為、低いスペックのパソコンやタブレットでも利用できる。
  • ネット上でデータを共有できる。
  • 使用したパソコンにデータが残らず、データの持ち出しも不可能
デメリット
  • インターネットが繋がらなければ利用できない。
  • IDとパスワードが解れば、誰でもアクセス可能

会計ソフト分類

インストール型 クラウド型 両対応
  • 会計王(ソリマチ)
  • フリーウェイ
  • オービック(OBIC)
  • freee(フリー)
  • MFクラウド会計(マネーフォワード)
  • 弥生会計(弥生株式会社)
  • jdl IBEX
  • 勘定奉行

会計ソフトのシェア
統計元によって、数字が大きくかけ離れており、 実態の把握は難しいですが、2017年時点でのトップシェアは「弥生会計」と判断して良さそうです。

一方で、右の円グラフは、会計ソフトを含めた経理に用いるツールをグラフに表したものです。 帳簿の記録方法

 

以下、手作業による会計帳簿の記帳が未だに多いという実態について中小企業庁のコメント

ITを導入していない中小企業は、いまだに手作業で記帳を行っており、 それによる記帳ミスや時間のロス、発生するコストが企業の生産性、収益力を押し下げていると推察される。

[参考資料]中小企業における記帳を行う際のIT利用状況

会計のITの活用状況

経理の仕事

  1. 日々の取引を記録。
  2. 一定期間ごとに試算表で集計。
  3. 年度末に、最終的な利益と損失をまとめる。
  4. 決算処理で作成された資料をもとに申告書を作成し税務署や税務課に提出。

会計処理の流れ

会計処理の流れ
(出納帳や固定資産台帳などの補助簿もありますが、ここでは省いています。)

これらを社内の社員やパートが業務の一部としてやっている場合もあれば、 会計事務所に丸投げしている会社もあります。

会計ソフトはどのように会計処理をしているか?

会計ソフトの仕組み
会計ソフトは、記帳したものに対して、転記や集計を行い、売上分析の資料を作成したり、税務署への提出書類を作成してくれます。

会計ソフトによる決算

例えば、中小企業の場合、 決算期には、最低限、下記の書類を作成し提出しなければなりません。

  • 賃借対照表
  • 損益計算書
  • 株主資本等変動計算書
  • 個別注記表
  • 附属明細書
  • 法人税申告書
  • 消費税申告書
  • 地方税申告書

この中で、会計ソフトが対応できないものは、 都道府県や市町村ごとに様式が異なる「地方税申告書」ぐらいです。
業種や企業形態によって、提出の有無が異なる別表(法人税を計算するための書類)も会計ソフトで選定し、入力してくれます。

法人の決済処理は難解ですが、 フォーマットに従い、定められた項目に定められた値を入れ、 前提に従い、税額を計算するという処理で構成されています。
会計ソフトの内部処理は色々な働きから構成されていますが、 そのひとつが、RDB(関係データベース)構造のデーターベースを用いた処理です。

会計ソフトの構造

[参考資料] wikipedia 「関係データベース」

RDBの内部構造はAの値の変化すると関連するBの値が自動的に変更されるexcelの参照関数のようなものをイメージして頂けると解りやすいです。

会計ソフトの構造(Excel)

会計ソフトには、独自の処理も施されていますが、 ソフトウェアが行っている処理自体は、ゲームのプログラムよりも遥かにシンプルで単純です。

例えば、「役員賞与」という出資区分は一定の条件下でのみ損金算入できます。
条件を満たしていなければ「費用」として集計しないという処理を1プロセス追加するだけで、何度繰り返しても、 計上ミスすることなく、集計されます。

ここまでが、プログラムが得意とする処理による会計ソフトの基本動作です。

会計ソフトの限界

プログラムが越えられない壁の例として税の計算を取り上げます。
税理士や会計事務所のメイン顧客である中小企業に関係する税金は、下記のようなものがあります。

  • 所得税
  • 消費税
  • 法人住民税
  • 固定資産税
  • 法人税事業税
  • 印紙税

例として、消費税の計算を会計ソフトで処理することを想定します。

「会計ソフトによる非課税の取引の判定」

消費税は、全ての取引に対して発生しますが、自賠責保険の対象となる医療行為であった場合は非課税になります。
また、同じ非課税取引であっても非課税となる期間が決まっています。
会計ソフトの取引の記録時に「税区分」の属性さえ、正しく選ばれていれば期間と集計は正しく行われますが、 正しい税区分を選ぶ判定が入力時に必要です。

こういった課題が、会計ソフトは、所詮は経理担当者向けのソフトウェアで有り、 最低でも簿記2級程度の知識を持っていなければ、使用することすら出来ないと言われていた所以です。

会計ソフトを根本的に変えた開発会社

しかし、ユーザー(利用者)を増やすためには、 どのような会計ソフトを作ればよいのかという課題に挑戦した開発会社は、 会計ソフトを玄人向けの記帳用ツールから脱却させる為の努力を重ねました。

そのひとつの手法が、経理の人間が頭の中で行っている判定を会計ソフト上で再現し、想定されるパターンを網羅することです。

経理担当者

「勘定科目」を選び、金額を入力していた記帳方法を根本的に変え、 ウィザート(選択肢)を使い、入力を促すことで、全ての処理に必要なデータを包括する正しい値を利用者に選択させることが可能です。
入力者は自分が選択している値について、知識がある必要はありません。
一般的な言葉(常用語)で書かれた選択肢を選ぶ単純な事務作業であるのにも関わらず、 完成する成果物は、会計ソフト開発の監修にあたった有資格者の公認会計士や税理士が作成した書類と同じレベルのものです。

こういった既存に拘らない会計ソフトの構造は、経理について造詣の深い人間では、思いつき得なかった発想の転換です。

[参考資料]消費税法 http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S63/S63HO108.html

AI(人工知能)による会計ソフトの進化

それでもプログラムは、曖昧な判断が苦手です。
例えば、資産の収益性の低下を察知して、資産の下落額を反映させる「減損処理(減損会計)」を会計ソフトに任せることは不可能だと言われてきました。
今後、その壁を越えていくことを期待されるのが、AI(人工知能)です。

AIによって強化できる会計ソフトの機能

  • 不明入出金などの想定外の事態への対応
  • 経費の判断
  • 税務調査による指摘への異議申し立て書類の自動作成
  • 節税の提案

法の解釈がもたらす曖昧な部分の解釈も可能になり、 ベテランの税理士の経験の中に蓄積されていたノウハウを会計ソフトの中で再現することが期待されます。

ちなみに、一部の会計ソフトで導入されている領収書を撮影するだけで、帳簿入力が完了する機能にもAIが活用されています。 (画像認識、OCR(文字認識)、分析処理 から構成)
経費の自動入力
まだまだ、誤認識も多いですが、これが、完全に完成すると、入力の手間すら不要となります。
(2018年5月追記:人の識字能力を超える精度まで改良されました。)

 

税理士事務所の今後

以下、東洋経済 より引用 http://toyokeizai.net/articles/-/13126?page=2

「減っている職種は事務や事務補助、秘書、営業など、ホワイトカラーの仕事だ。
コンピュータのおかげで文書事務が減ったことも一因となっている。 会計士や弁護士などの専門職も例外ではない。
税計算ソフトのおかげで、複雑な所得税の申告もネットでできるようになり、 ソフトの開発会社は大いに儲けたが、数年前に比べ、税理士の需要は8万人も減った。」

会計ソフト、AI、RPAを原因とする仕事量の低下は、業界内での競争を産みます。
最新技術を駆使してコスト削減や顧客の利便性を追求できている会計事務所と 商業高校の卒業生や予備校上がりの従業員を雇い、相変わらずの人海戦術で顧問先から預かった資料を整理して記帳代行を行っている会計事務所では、 コスト面で圧倒的な差が出るようになります。
また、既得権益に浸かって競争を忘れた会計事務所から顧客を奪うチャンスで有るとも言えます。

まとめ
いかに、コンピューターが的確な経営アドバイスが出来るようになっても、人は人に相談することを望むものです。 会計事務所が、税務調査という経営者が無暗に恐れるイベントに対するお守り役としてのみ存在価値を発揮するのか、 コンサルティングにシフトするのか、在り方が問われる時期であると言えます。

補足:如何にして、東京の大手会計事務所は沖縄の個人経営の税理士に長年の顧客を奪われたのか?

クラウド会計ソフトの急速的な普及の背景

クラウド会計ソフトは、自動データー取り込みが特徴的な機能として注目されがちですが、 クラウド型の会計ソフトの最大の利点は、 ネット上でデーターの共有が可能であることです。

クラウド会計ソフトの開発会社は、自社のソフトを普及させる為に、
「自社ソフトの獲得ユーザーに登録している税理士を紹介」し、
税理士は、「税理士事務所が抱えている顧客に「データー共有」というアピールしやすいメリットを持ったクラウド型会計ソフトを勧める。 」
という図式を作り出しました。

クラウド会計ソフトの裏側

クラウド型会計ソフトは、遠隔地であっても、データーが共有できる為、 顧問税理士をユーザーの居住地の近隣に事務所を構える税理士に限定する必要はありません。
1500km離れていようと帳簿を共有し、チャットで瞬時にアドバイスが貰えます。

また、日本において、税にまつわる業務は、法律で保護された税理士による独占業務ですが、 それは、国内に限定された話です。
クラウド会計ソフトの普及に伴い、簡単に、海外にアウトソーシングできる環境が整うことともなります。