updated at 2019-6-27
かつて技術大国であった日本はバブル崩壊後に歩みを止めたまま、平成が終わり、
かつて日本企業が上位を占めていた世界の時価総額ランキングはトヨタを除く全てが入れ替わり、GAFAに代表されるIT企業が占めました。
また、情報通信分野の開発競争では中国やインドに大きく引き離されています。
最近になって急に目が覚めたかのように、
といったような目標を掲げ、下記のような計画で人材基盤の増強を目指すようです。
出典:「統合イノベーション戦略推進会議」(内閣府)
https://www.kantei.go.jp(PDF形式)
実際にAI案件に取り掛かると、機械学習に必要なデータが「足りなかったり」「質が悪かったり」「そもそも無かったり」して最初からつまずく状況に遭遇します。
第4次産業革命の技術は新しいものでは無く、既存の延長にあるものです。
AIもIoTもIT基盤の無くしては成り立ちません。
極東の島国にIT後進国が出来た経緯について検証してみます。
まず、時代的な背景として、
リーマンショック後に多くの企業でリストラが実施されましたが、その際に理系あがりの技術者がターゲットにされています。
リストラされた大半の技術者は
不況下で再就職もままならず、そのまま、警備員などのスキルを活かせない職に再就職しました。
新卒採用を絞った氷河期と併せ、企業の構成員に偏りが生じる土壌が形成されました。
管理職に理系的な素養がある人間が少なくなると、企業は技術を正しく評価できなくなり需要の予測を見誤ります。
東芝とフラッシュメモリの発明者の騒動は有名ですが、さらに、東芝はその後にサムソンに技術を売ってしまい今日の状況に繋がっています。
参考リンク:NHKアーカイブ
https://www.nhk.or.jp
自社にとってコアコンピタンス(飯のタネ)である技術を捨て何が残るのかと問いたくなりますが、
企業の構成員が内を向き、社内政治に明け暮れると、
組織の維持が目的と成り、
領地も無いのに城の本丸だけは残っているような状態に陥ります。
このようなゾンビ化した大企業が外国に買われる状況は今後も続くと思われます。
CIOはchief information officerの頭文字で日本語では最高情報責任者と訳されます。
一定以上の規模の企業や行政で役職が置かれていますが、
日本では、CIOの認識を誤ったまま、必要な権限が与えられていません。
CIOはchief insights officerの略でもあります。
名前の通り、本来のCIOの役割は、経営者サイドに立ち、組織の最高決定者に、情報技術に関する助言を行い、
情報技術に基づいた経営戦略を提言することです。
しかし、日本では、単なる情報システム部門のリーダー的な役割に止まってしまっています。
日本はイノベーションを起こせないのか?
実はすごい(すごかった)日本の技術
「スマートフォンの原形はiPhone前からとっくに出来ていた?」
ガラケー全盛期の頃、
ビジネスでの利用を中心にPDAなる小型通信端末が使われていました。
PDAの原案を作ったのは英国の企業ですが、 小さな改良を積み重ねて完成度を上げるのは得意な日本企業は現在のスマートフォンに近い形まで進化させ、 各メーカーで様々な機種が製造されていました。
SONY製のPDA
PDAがスマートフォンのような存在にならなかった理由は2つ有ります。
appleにおけるジョブズとウォズニアックの関係のように、 努力や才能を評価し、価値を共に作り、盛り立てる人間が傍に居なくては、新しいモノはなかなか脚光を浴びません。
ルンバのようなお掃除ロボも早くから出来ていたが社内会議で没にされています。
日本人はイノベーションに向いてないと言われますが、
このように縦割りの組織や慣例に潰されているケースもあります。
尚、日本で初めてPDAを発売したパイオニアは、その後、カーナビゲーションシステム事業に集中。
しかし、経営悪化により、2019年3月上場を廃止し、香港の投資ファンドの完全子会社になりました。
カーナビはスマートフォンの地図アプリにシェアを奪われているのが因果な構図。
国の方針として、「若者を教育してAI技術者を増やす」と掲げているのにも関わらず、 AIの基礎である行列(マトリックス)や微分積分すら、もはや学校で教えていません。
そもそも、学生が物理や高等数学を習っていないようです。
高度経済成長を支えた層や後のノーベル賞受賞者を世に送り出した時代と比較して履修率が4分の1に下がっています。(8割近く減少)
また、大学進学率は年々増加していますが、文系学部への偏りが異常な状況になっています。
参考資料:文部科学省「学校基本調査」
http://www.mext.go.jp
(学部別・学部指定の求人数との比較でも、新卒の売り手市場の背景で、需要と供給の激しいミスマッチが起きていることは明白です。)
そして、数少ない理系学生のうち偏差値が高い生徒のほとんどは医学部や薬学部に進学します。
他国では高給取り職に属すエンジニアも日本では負け組の象徴になっている為、志す優等生は夢追い人扱いです。
数学は論理的な思考の基礎であり、思考は論理によって成り立っているので、決して無意味な学問では有りません。
理数系の学習時間を削って増やしたのが英語ですが、こちらも一向に成果が出ません。
地頭が鍛えられていない学生に幾ら投資したところで、結果は出ないのでは無いでしょうか?
江戸時代に独自にニュートンにライプニッツに双肩する理論に辿り着いていた数学史の有る日本で今の現状は実に情けないです。
諸悪の根源ともいえる業界のゼネコン構造に関しては、
「Sierとは?」のページと被る為、そちらを見て頂きたい。
しかし、この問題の本質は他力本願な発注元と責任感の薄い発注先の双方に有ります。
労働と中間搾取はIT業界や日本の固有の問題では無く、世界中どこでも発生しています。
現場任せにせず、コンプライアンスの徹底を促すことが必要です。
例えば、テスラはCEOであるイーロン・マスク自らが多重下請け問題の解消に動いています。
高すぎるシステム開発
IT土方といっても、工員では無いので、システム開発に人手はいりません。
そして、並スキル100人より、高スキル1人の方が総合的な生産性が高くなります。
(ゲーム制作のような工程が多いものを除く)
大企業に数千万円支払って出来たシステムが、学生が趣味で作ったソフトウェアより劣るクオリティであることは珍しくありません。
これほど品質と価格が比例しない商品は珍しいです。
遅い開発スピード
上から下に伝言ゲームをする下請けピラミッド構造は、
ウォーターフォール型の開発スタイルでは、かろうじて機能しますが、
スピードが要求されるアジャイル型の開発や
短いサイクルでシステム自体の調整を繰り返すようなシステムでは対応できません。
システム発注に関する訴訟が発注元と発注先の間で頻繁に起きていますが、 アウトソーシングや外注の無駄に気づいた企業から内製に切り替えています。
IT後進国がどのような弊害をもたらすか捉えることは難しい。
IT=事務ツールをイメージする人は影響は少ないと見積もるでしょう。
金融機関におけるマネロン対策とは、 窓口業務担当者の教育のようなアナログな対応と同時に、 「可視化」「追跡」「検閲」等の仕組みを取引システムの中に盛り込む必要があります。
システム開発の際、発注側が提案を待つ受け身の姿勢を取ることが頻繁に有りますが、 システムを作る側が顧客の業務に精通するのは不可能に近いです。
このようなケースの場合、発注者となる銀行側が要件のアウトプットを正確に行い、
どのような機能を備えたモニタリングシステムが必要かを的確に伝え、
金融機関にとって本当に必要なシステムを納品して貰う必要が有ります。
その為には、発注側にもシステムに関する最低限の素養が必要です。
世界有数のビジネススクールであるスイスの
国際経営開発研究所の調査結果で、
日本の国際競争力は世界30位。1997年の調査開始以降で最低の結果になりました。
中でも「ビジネスの効率性」が46位と低く、ビッグデータの活用や分析、国民の国際経験や起業家精神も最下位になっています。
国際評価を受けるまでも無く、日本の職場は生産性が低く、人がいつまでたっても単純労働から解放されません。
上記の通り、システム開発の収益を複数の企業で分配することが前提になっている為、システムの導入費用が非常に高額です。
人件費がシステムより安くなってしまうと、日本人の労働に対する価値が低下していく一方です。
以下は、コインチェックで仮想通貨の盗難があった際のフォーブスの記事ですが、 事件を切り口に日本の抱える問題を的確に指摘しています。
「コインチェック事件に象徴される日本企業のセキュリティ問題」
https://www.forbes.com
抜粋&ざっくり意訳
3段落目
日本にいつもサイバー犯罪にカモられます。
安全に関する問題は日本のビジネス習慣に広く&深く根付いています。
soft-target(ソフトターゲット)は簡単に攻略できる対象のことです。=カモ
4段落目
日本企業とコンピューターセキュリティの関係は変です。
一方では、セキュリティデバイスやコンプライアンスの監査に多額のお金を払いつつ、
もう一方で、実質的なセキュリティは放置されます。
OSはパッチがあてられず、ファイアーウォールは初期設定のままです。
ここで例にあげられている監査は大企業で定期的に実施されている天下り団体の監査のことかと思います。
記事の下の方では、スタートアップ企業も、
penetration testing (疑似攻撃を行ってセキュリティの堅牢性を測るテスト)のような実質的な監査よりも
投資家の理解を得やすい形骸的なコンプライアンスの監査を重視する傾向があると指摘されています。
6段落目
専門知識より管理経験が重視されるのは、日本企業が縦割り社会で有ることに起因します。
7段落目
CSO(Chief Security Officers )は管理経験を問われますが、技術的なバックグラウンドは要求されません。
システムをアウトソーシングしてきた経緯も有り、彼らは基礎的な知識に欠けていることが多いです。
最後の段落では、このように酷い日本のセキュリティ事情にも拘わらず、今まで、集計上の被害額が小さかったのは単に日本語が障壁になっていたからで有り、
翻訳ツールの進化によって、今後、被害が加速度的に増えるのではないかと指摘します。
そして、単独の問題と捉えるのではなく、包括的な対応が必要だと締めくくられています。
このように外からは問題の本質が良く見えているのに、 日本ではIT業界(情報通信事業者)を指導できる立場にある経産省でさえ、自体を認識出来ていないように思えます。
現状の延長に明るい未来は無いので、一度、徹底したスクラップアンドビルドが必要では無いでしょうか。
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